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東京高等裁判所 昭和53年(う)997号 判決

控訴人 弁護人

被告人 高橋誠 外二名

弁護人 山下俊之 外一名

検察官 中野林之助

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人三名につき弁護人山下俊之、同大室俊三が連名で、被告人島川淳につき同被告人が提出した各控訴趣意書(たゞし被告人島川の分については(II)以降のみ陳述)に、これに対する答弁は、東京高等検察庁検察官検事中野林之助の提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

所論に鑑み、本件記録を調査し、当審における事実取調の結果をも併せ検討すると、原判決挙示の各証拠により、本件については次のような経過を認めることができる。

原判示の昭和五二年四月一四日午後六時三五分頃国鉄蒲田駅東口前路上において原審相被告人井上一夫が被告人三名を含むマルクス主義青年同盟(以下マル青同と略称する)員七名とともに街頭宣伝や機関紙の販売活動等を行つていた際、同人の所持していた機関紙の束が菊地道雄の頭部に当つたことから、右菊地は約三〇メートル離れた同駅東口派出所に馳けて行き立番勤務中の輿水勲巡査部長に「しつこく新聞を売りつけられたのでうるさいと言つたら新聞の束で頭を思いきり殴られた、すぐ捕えて下さい」と申告したので、同巡査部長は直ちに菊地と共に現場付近に赴き菊地の指示するところに従い、井上に対し「殴られたといつているので聞きたいから来てくれ」と派出所まで任意同行を求めたが、同人は「関係ない」「必要ない」といつて応ぜず、却つて付近にいたマル青同員らが「お巡り横暴だ」「通行人の皆さん、権力機関は横暴だ」などと叫び出したため、右輿水巡査部長は一人では到底逮捕できないと考えて派出所に戻り、本署である蒲田警察署に電話し、当直勤務中の同署公安係長木村勝利警部補に経過を説明して応援を求め、その後派出所前歩道上から引き続き井上らマル青同員の動向を見ていたところ、午後六時五〇分頃木村警部補が塩崎眞一巡査ら三名を伴つて到着し、前記輿水巡査部長及び派出所内の菊地から一、二分事情を聴取した後同人らとともに前記現場付近路上に機関紙を持ち立つていた井上に近付き、菊地が「あの男です」と指差すところに従い、同人に「君がやつたのか」と問いかけたが、井上はこれに応答することなく、その場から小走りに横断歩道を渡り同所に駐車中のマル青同の看板を掲げた宣伝カーの屋根上に上り、被告人木浦と話した後、午後六時五五分頃、屋根から下りて宣伝カーの中に入り込んだ。そこで木村警部補は、井上を暴行の準現行犯として逮捕しようと考え、宣伝カーの窓を叩きながら車から出るよう説得したが、ドアがロツクされて外から開かず、井上の出て来る気配が全くないばかりでなく、付近のマル青同員数名全員が宣伝カーの屋根の上に上りアジ演説をはじめるに至つたので、木村警部補は午後七時頃蒲田警察署に応援を要請し、午後七時一〇分頃同署交通課長代理の小山警部ら一〇人が馳けつけたので、同人らに状況を報告しているうち、午後七時一二分頃井上が運転して右宣伝カーを動かそうとしたので、これを阻止するため、付近に集つていたパトカー六、七台、蒲田署員の乗つて来た大型輸送バス、警備用車両各一台を右宣伝カーを取り囲むように配置し、パトカーや警備用車両のマイクで再三井上に自発的に車外に出るよう説得や警告を行つたものゝこれに応ずる気配はなく、宣伝カーの屋根上では被告人らマル青同員らがマイクでアジ演説を繰返し、付近には多数の群集が集つてきている状況となつたので午後七時四一分頃機動隊の派遣を要請し、午後八時一三分頃第一機動隊第一中隊員約三〇名が、午後八時一七分頃第三機動隊第一中隊約二〇名がそれぞれ到着し、その後も説得や警告を繰返したがこれに応じないため、やむなく右宣伝カーのドアをこじあけて井上を逮捕することゝし、午後九時九分頃、木村警部補がドア上部の窓に張られた金網を外す作業にとりかゝると、宣伝カー屋根上のマル青同員らが旗竿でこれを妨害する行動に出る様子が窺われたので、蒲田署の阿部安治巡査、ついで第一機動隊員の鈴木政広、日下博喜、南喜久男の各巡査がそれぞれ金属製大楯を木村警部補の頭上に掲げてその防護に当り、これに対し被告人高橋、同島川、同木浦がそれぞれ旗竿で突くなどして暴行を加えたが、木村警部補はそのまゝ作業を続け、午後九時一一分頃前記ドアを開け、前記菊地に再度確認させたうえ、午後九時一三分頃井上を暴行の準現行犯として逮捕し、その頃被告人三名を含むマル青同員七名をも公務執行妨害の現行犯として逮捕し、井上及び被告人三名は引き続き勾留のうえ、同年五月二日右各罪により起訴されたが、昭和五三年三月二二日井上につき無罪、被告人三名につき各有罪の判決があつたことを認めることができる。

そこで、以下順次各控訴の趣意について検討する。

一、訴訟手続の法令違反の主張について

1、所論は、原判決が掲げる司法警察員塩崎眞一、同木原稲男、司法巡査中津研二他一名、同和久田隆博の作成したいずれも昭和五二年四月一五日付各写真撮影報告書は、それらに添付された写真中に前記井上一夫の暴行被疑事件発生後間もなく被疑者を確定することなく莫然と街頭宣伝活動中の被告人らマル青同員を撮影したものや右事件から二時間以上も経過した後撮影したものを含み、証拠保全の必要性や緊急性の認められない状況での写真撮影であるから違法収集の証拠として証拠能力がないと主張する。

しかし、所論の各写真撮影報告書および原審証人塩崎眞一、同木原稲男、同中津研二、同阿部和雄、同和久田隆男の各証言によれば、右塩崎は前記木村警部補に従つて同日午後六時五〇分頃蒲田駅東口に到り直ちに同警部補の指示により暴行被疑者の乗り込んだマル青同の宣伝カー及びその付近の撮影を開始し、右木原は蒲田署からの応援として現場に馳け付け、上司の中藤警部の指示により街頭宣伝活動中のマル青同員の一人が暴行事件を起し、なお許可時間を過ぎてまでも宣伝活動を行つているとの被疑事実に関し、同日午後八時三〇分頃からマル青同員の状況について撮影を始め、右中津、阿部は前記第一機動隊第一中隊員として現場に到着した直後の午後八時一四分から、右和久田は第三機動隊第三中隊員として現場に到着した直後の午後八時一八分から、前同被疑事実に関しマル青同員の状況の撮影を開始し、前示一連の経過の状況、ことに井上を暴行の準現行犯として逮捕するため警察官が宣伝カーのドアを開く作業、これに対する被告人らの暴行による妨害の模様、被告人らマル青同員に対する逮捕状況について撮影したものであつて、右写真の撮影は、井上に対する暴行被疑事件による準現行犯逮捕及びこれに対する被告人らの公務執行妨害並びに同被疑事件による現行犯逮捕という一連の現に犯罪が行なわれ、若しくは行われた後間がないと認められる場合にその状況を捜査資料として保全し収集するため、通常の撮影方法で行われたもので何ら違法とすべき点はない(最高裁判所昭和四四年一二月二四日大法廷判決刑集二三巻一二号一六二五頁参照)から、所論は全く失当である。

2、所論は、本件において被告人らは当日午後九時一三分頃前記宣伝カーの屋根上で逮捕されパトカーに乗せられその四、五分後蒲田警察署に連行され、その後三〇分位して同署内で機関紙、腕章、ヘルメツト、軍手、所持品等を令状なく押収されたが、逮捕の現場でないところでの右押収は違法である、というのである。

しかし、原審証人小松隆、同椛山尊、同石川正治の各証言、司法警察員の作成した昭和五二年四月一六日付実況見分調書によれば、被告人三名は当日午後九時一三分頃相次いで前記宣伝カー屋根上において機動隊員らに逮捕されたが、当時右宣伝カー付近には数百名の群集が集り、駅前のことで交通が混雑し、酔払いが騒ぎ立てる等して混乱を生ずるおそれもあつたので、被告人らを直ちにパトロールカーに乗せ、三、四分で現場から直線距離で約四〇〇米南東の蒲田署に連行し、到着後直ちに腕章、軍手、ヘルメツト、ポケツト内の機関紙等を押収し、その手続は逮捕後約三〇分で終つたことが認められるところ、逮捕現場が群集に取り囲まれていて同所で逮捕者について着衣や所持品等を捜索押収することが、混乱を防止し、被疑者の名誉を保護するうえで適当ではないと認められる場合、当該現場から自動車で数分、距離約数百メートル程度離れた警察署等適当な場所で押収手続をとることは刑訴法二二〇条一項二号にいう逮捕の現場で差押する場合に当ると解すべきであるから、本件押収も右法条による適法な手続というべきであり、この点の所論も採用できない。

二、理由不備、事実誤認、法令適用の誤りの主張について

所論は、要するに、原判決は逮捕行為の着手時期を逮捕者の逮捕意思が客観的外部的に明らかになつた時と解し、本件においてこの時点を、前示のように井上の運転する宣伝カーが動き出した際、これを阻止するため大型輸送バス等を宣伝カーのまわりに配置し阻止線を張つた時(午後七時一二分頃)と認定したが、警察側は同時点以降も任意に下車するよう説得や警告を繰返し、午後九時七分頃現場指揮官である蒲田警察署副署長から実力で検挙するよう逮捕命令が出され、同九分頃木村警部補が金網を外しにかゝつたのであるから、その時点を逮捕の着手時期と解すべきであり、そうとすると井上に対する逮捕は、井上が罪を行つたとされる時から既に二時間半以上も経過しているうえ、犯人として追呼されていたものでもないから、準現行犯逮捕の要件を備えない違法のものであり、さらに、右逮捕は、井上の犯罪の嫌疑が原審で無罪となつたように、もともと明白なものでないのに二時間余も目撃者からの聞き込み等客観的な資料を収集する努力を尽さないまゝなされたもので重大な過失があり、いずれにしても適法な公務の執行とは認められないのに、原判決が、逮捕行為の着手があつた後、それが適法に継続していたことについて理由を付すことなく、被告人らにおいて右逮捕行為を妨害した旨の各公務執行妨害の事実を認定したのは、理由不備、事実誤認ないし法令適用の誤りを犯したものである、というのである。

そこで前掲証拠によつて井上一夫に対する逮捕の経緯について検討すると、前示のとおり、当日蒲田駅東口派出所に立番勤務中の輿水勲巡査部長は、午後六時三五分過頃、馳け込んで来た菊地道雄から新聞の束で頭部を強打された旨の訴えを受け、同人の案内で約三〇メートル離れた現場に赴き菊地が犯人と指示し、かつ機関紙の束を抱えて立つていた井上に任意同行を求めたが、同人がこれに応じないばかりか、付近のマル青同員らが騒ぎ出したので、派出所に引き返し本署(蒲田署)に応援を求めた後派出所前で井上らの動向を監視するうち、午後六時五〇分頃当直の木村勝利警部補が部下三名を伴つて到着し、右派出所内で菊地や輿水巡査部長から事情を聴取して直ちに同人らに案内させ、菊地の指示で前同場所で機関紙の束を抱えていた井上を確認し、傍に近付き呼びかけると、同人は小走りにその場から去り横断歩道を渡り、付近に駐車中のマル青同の宣伝カーの屋根の上にあがり、間もなく車内に入つてドアーをロツクし、その後木村警部補の車外に出るようにとの説得にも耳をかさず、付近のマル青同員等が全員右車の屋根に上りアジ演説をはじめたことから、同警部補の要請で、小山警部ら一〇人の警察官が応援に来たが、午後七時一二分頃右宣伝カーが動き出したため、警察官を乗せて来ていた大型輸送バス等数台の車で阻止線を張つたものゝ、井上や他のマル青同員の態度は変らず、群集も多数となつてきたゝめ、午後七時四一分頃警視庁機動隊の派遣を要請し、午後八時一七分頃までに機動隊員約五〇名が到着した後も依然井上は降車の説得に応じなかつたことから、遂に前記宣伝カーのドアーをこじあけて逮捕することゝなり、午後九時九分頃木村警部補において右ドアーの上部窓の金網をとり外す作業にかゝつたところ、屋根上のマル青同員らがこれを妨害する態度に出たので、蒲田署や機動隊の警察官四名が大楯を頭上に掲げて防護に当り、これに対し被告人三名が旗竿で突く等の暴行を加えたが、木村警部補は右作業を続け、午後九時一三分頃井上を前記菊地に対する暴行の準現行犯として逮捕したことを明らかに認めることができるところ、準現行犯逮捕が適法であるためには、被疑者を逮捕しようとした時点における具体的状況のもとで、警察官が同被疑者を準現行犯人として逮捕する要件があると認めたことが客観的に是認されるものであれば足り、同被疑者の被疑事実について結局犯罪の証明がないことに帰したとしても、直ちに右逮捕が違法であり、公務執行妨害罪の保護の対象とならない違法な職務執行行為であるとすることはできないから、進んで本件につき準現行犯逮捕の要件を充すものであつたかどうかについて検討すると、刑訴法二一二条二項一号にいう「犯人として追呼されているとき」とは、犯人であることを明確に認識している者により逮捕を前提とする追跡ないし呼号を受けている場合を意味するが、被害者あるいは犯行を現認した者が、犯行直後逮捕を求めて通報し直ちにすぐ近くの現場に赴いた警察官に犯人を指示し、同警察官から犯人に任意同行を求めたが、拒否されたので、さらに監視するうち、間もなく応援に馳け付けた警察官にも事情を告げ、略同一現場にいた犯人に近付き、犯人と指摘したときは当該犯人が犯人として追呼されているときに当ると解せられるから、本件においては、被害者菊地が暴行を受けたとする時刻から約二〇分後応援に馳け付けた木村警部補に犯人を指示するまで、追呼が継続していたと解することができ、さらに、その時まで、犯人は被害者がそれによつて殴られたという機関紙の束を引き続き抱え込み、同警部補を認めて急に小走りで一〇数メートル離れた宣伝カー内に逃げ込みドアーに旋錠し、車外に出るようにとの説得にも応ぜず、午後七時一二分頃右宣伝カーを動かし始めたゝめ輸送バス等によつて阻止線が張られたことによつて、木村警部補による逮捕の意思が客観的に明らかになり、逮捕行為の着手があつたと認められるから、それまで前記追呼の状態が継続していたと認められるとともに事件発生後三七分の経過しかないことにも照し、その時点で罪を行い終つて間がないことが明らかに認められる状態にあつたと解せられ、木村警部補の逮捕の着手行為は準現行犯逮捕の要件を充す適法なものと認められる。

所論は、本件逮捕に着手したのは当日午後九時九分頃木村警部補がドアー上部窓の金網を取り外しにかゝつた時点であり、その以前は阻止線を張つたことを含め職務質問の際の任意同行を求めるため肩に手をかけると同様の行為と見るべきである。仮に逮捕が阻止線の張られた時点から着手されたとしても前記逮捕のための金網の除去作業開始までに犯行から二時間半余を経過し時間的接着性等準現行犯逮捕の要件を欠くに至つていた旨主張するのであるが、逮捕の着手時期は、一般に逮捕者の逮捕意思が客観的外部的に明らかになつた時を指すと解すべきところ、原審証人木村勝利の証言によれば、本件では同警部補は井上がマル青同の宣伝カーに逃げ込んだ時点で同人を逮捕しようと考えたものゝ、その意思が外部的に明らかになつたのは、井上の運転する右宣伝カーが動き出したので、急ぎ大型輸送車等で阻止線を張り逃走できないようにした時点であると認めるのが相当であり、その後実力で逮捕することが決定され、木村警部補がスパナーで金網を外す作業に取りかゝるまでに約二時間を経過していることは所論のとおりであるが、その原因は、前示のとおり、井上が度重る説得にもかゝわらず宣伝カー内に閉じこもり、同車屋根上ではマル青同員がアジ演説をし、群集も数百名となり、実力で逮捕するにも機動隊の応援を得て配置を完了する必要もあつたゝめで、このように逮捕に応じない被疑者について二時間程度逮捕のための行動を継続したことはもとより許容されることであり、その間の時間の経過によつて準現行犯逮捕の時間的近接性その他の要件が消滅するとすべき理由はない。

以上の諸点に照すと木村警部補の井上に対する準現行犯逮捕は適法な職務行為であり、これを援護する四名の警察官の職務行為を含む公務執行行為に対する被告人ら三名の旗竿で突く等の妨害の事実を認定しこれを違法とした原判決には何らの理由不備、事実誤認ないし法令の解釈適用の誤りも存しない。論旨は理由がない。

三、不法に公訴を受理した違法があるとの主張について

所論は要するに、本件は不当な予断、偏見に基づき、マル青同を弾圧するため、井上に対する違法な逮捕に名を藉りこれを妨害したとして機動隊まで要請し、事前の警告も出すことなく、本件現場のマル青同員全員を逮捕し、本来起訴価値のない軽微な事案であるのに被告人三名に対し公訴を提起したもので、このことは(一)前示の違法な写真撮影による証拠収集、(二)宣伝カー内にいた無関係の阿部尚純の不法逮捕、(三)前示違法な押収手続の施行等によつても明らかであり、本件公訴の提起は、検察官の裁量権の濫用にわたり、棄却すべきであり、原判決には不法に公訴を受理した違法がある、というのである。

しかし、前示したとおり、本件は国鉄蒲田駅東口構内付近でマル青同の宣伝活動をしていた井上一夫から頭を新聞紙の束で叩かれたとする菊地道雄の訴えを受けた東口派出所警察官から事情聴取のための任意同行を求められたのを拒否しその後も一切事情聴取に応ぜず宣伝カーの中に逃げ込み、しかも付近のマル青同員が警察の横暴をなじるアジ演説をはじめ、その後の説得、警告にもかゝわらず、同人らがその反抗的態度を変えなかつたばかりでなく、駅前で群集も数百名になつたことから、警察官を次第に増員し、井上を準現行犯で逮捕し、かつこれを妨害するマル青同員を現行犯逮捕した事案で、前記のとおり右各逮捕は適法であるのみならず、その経緯に照しても警察がマル青同員に特段の予断を持ち、ことさら同人らを刺激しあるいは井上らの逮捕を口実にして弾圧を図つた等の事情は全く認められず、繰返し説得がなされていた事情に徴しても被告人らの警察官の宣伝カーのドアー開披作業に対する妨害が違法な公務執行妨害に当ることは被告人らに十分認識される状態にあつたことは明らかであり、なお警察官による、(一)の写真撮影、(三)の押収手続はいずれも適法と解せられることは前示のとおりであり、(二)の阿部尚純についての事実も同人が他のマル青同員と略同時に蒲田署に赴いたことは認められるが、同人の原審証言及び塩崎眞一の作成した写真撮影報告書添付写真(とくにNo. 41)によつても、同人は任意同行に応じたもので逮捕手続はとられていなかつたことが明らかであり、右諸点はいずれも違法の前提を欠き、以上の諸事実に加え、被告人らの本件各公務執行妨害の所為は、数百人の群集の前で、適法に井上に対する逮捕行為を行う警察官に対し、公然とこれに反抗しその職務執行行為を妨害したものであることを考慮すると、違法性は決して軽視することを許されないものがあり、これを軽微で起訴価値がないとする所論は失当であり、本件公訴が濫用にわたり棄却されるべきであるとの所論は全く理由がない。

よつて刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することゝし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松正富 裁判官 千葉和郎 裁判官 鈴木勝利)

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